知り合いに、ユニークな夫婦がいる。
二人とも、学生時代に尋常でない経験をしたために、普通の就職先が見つからない。
そんな二人が結婚して、個人経営の塾を始めた。
最初は生徒が集まらず、マンツーマン指導で教えるしかなかった。
しかしそれが奏功し、また生徒の出来が良かったのだろう、生徒の成績が著しく向上したことが口コミで広がり、段々有名塾になっていったらしい。
夫婦二人だけの協力で、徒手空拳から始めたのに塾として成功を収めたのは、二人が根っからの商売人であり、商才に長けていたからだろう。
その後、塾がかなりの規模になったところで、経営権を譲与し、妻は塾の講師を続けたが、夫は政治家を目指し、当時の自民党最大派閥に所属する国会議員の秘書になった。
そこで秘書経験を重ねていると、生まれ故郷の大物政治家が引退することになった。
そして夫は、その後継候補になることが内定した。
そうなると、塾どころではなくなる。
妻も塾を辞めて、夫婦して生活拠点を選挙区に移し、立候補に向けて事前活動を始めたところで、政界を揺るがす大疑獄事件が勃発した。
その結果、夫の後ろ盾だった超大物議員が失脚し、一気に立候補が困難になった。
立候補さえできれば、大物政治家の地盤をそのまま引き継げるはずだったのだから、当選が間違いなかった。
夫の失意は、想像に難くない。
妻の方も、国会議員夫人の座が消え失せたので、すっかり思惑が違ってしまった。
そこで妻は元の塾講師に戻ったが、夫は一から韓国語を勉強し、今や韓国のどこかの大学の講師となっている。
僕は、夫が大学の講師でも充分と思うが、妻は、国会議員の妻でなければ不満らしい。
大志を抱いて活動していた夫が、政治家を断念した途端に、努力も勉強もしなくなったと見えてしまうようだ。
そこから、従来にも増して夫婦喧嘩が絶えなくなり、現在は別居中だ。
他人の政治スキャンダル発覚で、夫婦の夢が雲散霧消した。
運が悪かったとしか言いようがないが、これは仕方がない。
問題は妻が、夫がすっかりヤル気をなくし、努力しなくなったと思っていることだ。
この妻は、「オトコたるモノ、立身出世を目指すべき」との、明治時代までの価値観をそのまま持ち続けているような女性で、代議士の夢を諦めた夫に魅力を感じない。
僕は、彼女の価値観には与しない。
別段、オトコの価値は、社会的な立場だけで測れるものではないと思うからだ。
政治家の道を諦めて、韓国とは言え(「僕が大嫌いな国」の意味で、韓国を差別しているものではない)、大学の講師にまでなったのなら、それは立派な努力の成果だ。
しかし彼女にとっては、韓国のどこかの大学で講師をやっているのと、誰もが知る国会議員とでは、世間的な見栄えが違うようだ。
こんな野心的な女性が嫁だったら、常に尻を叩かれているような気分がして、穏やかな生活など送れなかっただろう。
元よりそんな縁があった訳ではないが、やはり夫婦は、似た者同士が一番だ。