つけっ放しだったテレビを何気なく見て、思わず「エエ~ッ!」と声を出した。
ひょっとしたら「ウウ~ッ!」と、押し殺した呻きだったかもしれない。
(そんなの、どっちでもいいが)
画面には、NHKの歌謡番組が流れていた。
そのオープニングに加山雄三が登場して、歌うは最大のヒット曲「君といつまでも」。
そこに、司会の谷原章介の「永遠の若大将、加山雄三サン」のナレーションが被る、
・御年83歳
・今風に言えば、父コントレイル、母アーモンドアイみたいな超良血サラブレッド
・若い頃から映画に歌に大活躍して、ついた愛称が「若大将」
・共同経営のホテル破綻で被った巨額負債を、松本めぐみ夫人と二人三脚で返済
・老いて尚、「永遠の若大将」として八面六臂の大活躍中
と、煌びやかなプロファイルが並ぶ、日本芸能界を代表する大スターだ。
画面には、「君といつまでも」を朗々と歌い上げる加山雄三の雄姿が映し出され、加山独特の、鼻が詰まったような声質が流れる。
ところが時として、テレビは残酷な面を見せつける。
大スターの歌い振りをフィーチャーしようと、加山を時折アップでとらえるのだ。
するとそこには、髪形だけは「異様に」昔のままだが、目がたるみ、顔がはれてしまった、何とも奇妙な老人が映っている。
更に、場面を盛り上げようとする演出が、却って傷口に塩、タバスコを塗り付ける。
同じ歌を歌う、加山の30台と思しき画面がオーバーラップされたのだ。
これは、インチキ商品のコマーシャルの「使用前」と「使用後」写真比較の逆バージョンで、使用前に比べ、使用後の加山が如何に劣化しているかを如実に表してしまう。
「アァ、加山にはあんなに溌剌とした若い頃があったのだ」との感傷には浸れるが、衰えた現実を再確認することにもなってしまう。
しかも、加山の音程が安定しない。
所々で、明らかに音程を外す。
加山が歌い終わると、猛烈に感動、感激した風情の司会者、谷原が「加山さん、いつまでもお若い」と、追従笑いでゴマを摺る。
これは定番だが、次に「暫く体調を壊されていたらしいですが」と心配げに質問する。
すると加山は、「完全に回復して、今は全く元気です」と返事をしていた。
どうも、軽い脳梗塞を患っていたようだ。
83歳で脳梗塞を克服した加山が元気を歌う姿に、夢と希望を感じる人もいるだろう。
実際に加山のツアーには、多くのファンが押しかけているらしい。
しかし、あの青春の大スターだった加山が、何時までも若さを前面に押し出しながら、たるんだ顔で歌うのも見るのは忍びない人もいる。
ましてや、あのアタマだ。
あのアタマが素に戻った姿を想像するだけで、おぞましくなってしまう。
僕は、老人は年相応に老けていく方が良いと思っている。
いつまでも若さを売り物にしていると、年寄りになるチャンスを失う。
若さを売り物にする老人もいるが、加山のように「30台から変わっていない」みたいなキャラは、どう考えても無理筋だ。
そんなことをすると、若さを取り繕うための余計な努力が必要になる。
長生きのためにも、周囲との調和のためにも、加山雄三的生き方は御免だ。
年寄りは、無理をしない。
そんな老人に私はなりたい!