他の例を多く知っているわけではないが、我が家は比較的、夫婦喧嘩は少ない方だと思う。
昨年秋も、夫婦で東北紅葉見物に車で出かけたが、1400㎞の道中の二泊三日間、ずっと一緒だった。
勿論、風呂、トイレと寝る時は会話が途絶えるが、後は食事中も車で移動中も、ずっと顔を突き合わせている。
後輩にこの話をしたら
「ずっと一緒にいたんですか?」
「よく時間が持ちますね」
「一体、何を話しているんですか?」
と、実に怪訝そうに質問された。
不思議な生物でも見るような顔をされたが、言われてみると、別段難しいことを話しているわけではない。
ただ、昔の思い出話や、友人の話、最近の世相への自分の考えを話したりしていると、けっこう盛り上がるものだ。
家にいる時もそうだ。
リタイア以降は、ほとんど二人で家にいる。
嫁の方は、一週間に二度は、趣味の語学教室に通っているし、たまには友人たちとの食事会に出かける。
しかし亭主の方は、昔の仲間との会食が、年に一度か二度あるだけ。
後はひたすら、家に籠り続ける生活だ。
勢い、嫁への濡れ落ち葉族となる。
こうなると、この歳で嫁に見捨てられたら生きていけない。
そんな危機感から、決して嫁の機嫌を損ねないように、細心の注意を払いながらゴマをすり続ける。
そんな危機管理能力を身に着けると、夫婦喧嘩は発生しない。
ただその昔、一緒に海外旅行する時は。決してそうではなかった。
団体ツアーを嫌う我々の海外旅行は、期間はおよそ一か月で、ガイドなしの夫婦二人旅だ。
当然ながら、旅行中に何かトラブルが発生すると、大した語学力もないのに、夫婦二人だけで解決しなければならない。
その部分では協力意識が強くはなるが、再発防止のためにトラブル原因を探りだすと、必ず責任のなすりつけ合いとなる。
そうすると「君が悪い」「イヤ貴方の所為だ」と、口喧嘩が始まる。
日本にいれば、例えこんな事態になっても、テレビを見たり、出かけることで冷却期間を置ける。
しかし海外旅行中は、喧嘩して口もききたくない気拙い雰囲気になっても、いつも二人一緒で行動しなければならない。
海外で喧嘩になると、お互いに無口のまま旅を続けざるを得なくなり、仲直りのチャンスが中々見つからない。
そんなことを反省し、出発前のラウンジで嫁に「今回の旅行では、絶対に喧嘩をしないことを第一目標にしよう」と提案してみた。
気に入らないことがあっても、お互いに我慢しようと約束したのだ。
その後の一か月間は、将に修行同然。
お釈迦様が悟りを開くまでは、こんな精神状態で過ごしたのではないかと思うほど、我慢、我慢の連続だった。
しかし、為せば成る。
何と無事に、全く喧嘩することなく帰国することができた。
更に副次効果として、その後の夫婦喧嘩も激減した。
それ以来我々夫婦は、モットーとして「話題と笑いが絶えない家庭」を目指している。
二人で話してさえいれば喧嘩は避けられるし、笑いは健康に通じる。
夫婦喧嘩なんか、犬も食わないほどクダラナイ。
為せば成る、成らぬは人の成さぬなり、ナセルはアラブの大統領だ!