米大統領選でバイデンが勝ったことを認めたくない一心で、「あれは不正選挙で、証拠は山ほどある」と主張していた連中がいる。
何を隠そう、選挙結果が判明した直後の僕も、その一人だった。
僕の場合は、同じようにトランプ再選を応援してきたケント・ギルバードの、極めて客観的な解説を聞いて、早々にトランプの敗北を受け入れたが、あくまでトランプの勝ちに拘った連中もいた。
彼らは全く具体的な証拠がないのに陰謀論を持ち出し、バイデン大統領の就任式まで「最後はトランプの逆転勝利」を夢見続けた。
しかし結果的には、そんな奇跡など起きるはずもなく、むしろ根拠もなく不正選挙をアピールしたトランプ弁護団やFOX-TVは名誉棄損で訴えられ、裁判闘争を余儀なくされている。
この裁判に負ければ、巨額の罰金が課される。
また一発逆転を狙って国会に乱入したトランプ支持者は、FBIの捜査対象になり、今後の逮捕と司法判断を恐怖に晒される。
日本にも、百田尚樹や有本香、その他のいわゆる「勝ち組」がいる。
もしも彼らがアメリカで、同じ発言を繰り返していたら、間違いなくドミニオン社から訴えられていただろう。
アメリカから遠く離れた日本での妄言で、アメリカでは全く影響力がなかったのが幸いだった。
いくら日本で彼らに信者や親衛隊がいても、本家本元のアメリカで注目されない意見では、大統領選の大勢に影響を与えることはない。
それなのに日本では、いわゆる「勝ち組」と「負け組」の間で、口角泡の飛ばす勢いで激論が交わされる。
考えてみれば、実に滑稽な話だ。
百田は小狡くて「自分は作家で、評論家ではないので、単なる個人的意見を述べているに過ぎない」との予防線を張っている。
有本は、ジャーナリストでエディターと自己紹介している。
ただ日本の保守勢力の中で、百田や有本は一定以上の影響力を持つ論客であることは間違いない。
その彼らの米大統領選の見立ては、全く間違っていたことが明白だ。
過日のブログで紹介した、パウエル被告弁護団の言い訳など、真面な神経の持ち主なら、聞くに堪えないレベルだ。
百田は全くの沈黙状態だが、有本は今でも「あれはパウエル自身は与り知らないモノ」と強弁している。
しかしパウエルは記者会見でも、弁護団と同じ趣旨の説明をした。
百田も有本も、アメリカでここまで論理破綻してしまったトランプ勝利説を、日本で力説してきたことへのけじめは必要だ。
Twitterで百田尚樹をそんな風に批判したら、見事にブロックされた。
底が割れた百田の意見は、僕にとってもは参考になるものではない。
だからブロックされても、全く痛痒ではない。
しかし、中国の脅威を警告してきた日本の「国士」が、Twitterで自分への批判的意見を見つけると悉くブロックする。
天下国家を論じる人にはそぐわない、自分への批判には一切合切耐えられない気の小ささのコントラストが笑わせる。
ただ百田の本業は、自称小説家だ。
小説家は、事実を書く人ではない。
史実を自分なりに解釈し、面白おかしい作品に仕上げるのが仕事だ。
NHK昨年の大河ドラマの主人公は、明智光秀だった(らしい)。
当然ながらこのドラマでの光秀は善玉で、織田信長の理不尽さが我慢の限界を超え、本能寺の変になったとの設定だ(ろう)。
しかし世間では、光秀を単なる逆臣と描いている作品も多い。
これは、どちらか若しくは両方共、史実とは違うことを意味する。
しかし我々は、どちらが正しいかに目くじらを立てることはない。
ストーリーが面白くて興味を引き立てるモノなら、両方とも「これは小説だから」と受け入れる。
百田はそんな小説家としての観点から、米大統領選に関心を持ち、自分の思惑に沿った作品にしたのだろう。
だから、結果が間違っていようと、百田作品の読者が楽しんでくれさえすれば、その後の商売につながる。
そう考えれば、出鱈目ばかりだった百田の話に腹が立つことはない。
百田は現実を、針小棒大に、荒唐無稽に表現することで、自分の作品の読者を増やそうと考えていた。
まるでパウエルが「(事実を巡るのではなく)政治的信条の発言なので、名誉棄損にならない」と主張したモノの裏返しだ。
悲しいかな、百田発言をそのまま信じるカルト教信者のような親衛隊が、数多く存在している。
日本の百田信者たちが、自分が信じた百田発言はそんな絵空事の空想だったと気が付けば、万事ハッピーになるのだが。