取引先の友人が、6月末で会社を辞めた。
この三月末に,突然勤め先に辞表を提出したらしい。
かれこれ30年近く付き合ってきたが、彼が会社を辞めるとは全く知らなかった。
彼は、酒も飲めないのにこの一カ月で17回の送別会をこなし、6月30日に気の置けない仲間三人と最後の送別ゴルフを行い、我々の前から消えていった。
彼は、会社を辞めた理由の一つに奥方の病気があると告白した。
何でも奥さんが甲状腺ホルモン異常の、いわゆる「橋本病」を発病し、目が回るので車の運転ができなくなってしまったらしい。
「病院通いの運転手が必要なので、会社を辞めた。」
我々が、「そんなもん、タクシー使えばイイやん」と聞いたら、「ちょうど55歳になったこともあったんで。実は55歳になったら、それ以降は自分の思い通りに生きようと決めていた」との事。
「後悔したくないから、一生をサラリーマンとして生きる気はなかった」とも語っていた。
ならなかなかカッコ良い。
奥さんの看病の為に、安定した職場を捨てる決心をした彼は、もうしばらく辛抱していれば、間違いなく会社経営者の端くれにはなれただろう。
本来なら大変な悲劇のはずの奥方の病気も、すっかり美談になってしまい、深刻さが伝わってこない。
楽しい送別ゴルフが終わって、「まぁ、お互い頑張ろうな」等と訳のわからない会話の後、「とりあえず、何か役に立つことがあったら言ってヤ」と結んで、最後の最後の送別会がお開きとなった。
橋本病とは、原因不明の難病らしい。
ただし、彼が将来を嘱望されていた仕事を辞めてまで、奥さんの看病を選んだのだから、きっと元気になってくれるだろう。
別になんの根拠があるわけではなく、単に希望的観測でしかないが、絶対にそう思いたい。