世の中には、思い切り間違えた日本語を、平然として使う人がいる。
ガッツ石松、村田英雄の伝説は、真偽の程は別として、コントのネタにまでなっている。
僕が二年間一緒に仕事をした先輩は、ネタでもなんでもなく、勘違い日本語の達人。
元をただせば、彼は理科系の大学を卒業した純然たる技術屋さん。
小難しい日本語には無縁のはずなのに、訳知り顔でやたらと会話の中にややこしい単語を鏤めるのが大好きな人で、その傍若無人振りの言葉使いは、もはやゲージツの域にまで達していた。
最高傑作は、収益改善の為に乾坤一擲、敢然と製品値上げに打って出た時に、社員に檄を飛ばした時の台詞、
「みんな、今回の値上げは何が何でも達成しなければならない。もうサジは投げられた!」
オイオイ、始まる前に「サジをなげて」どうする。
それは「賽を投げる」や、オマヘンカ。
ピンチに陥った時に、周囲から解決案が齎された時、
「アァ助かった。渡りに橋だ。」
確かに「渡りに舟」よりも確実に渡りきる事が出来るし、橋があれば、舟はいらない。
侃々諤々の議論の中で、
「それも有力な、センタクワザの一つだ。」
どうやら「選択肢」の積りらしいが、洗濯のテクニックに聞こえてしまう。
「某社は、あのお客さんから玄関払いを受けたらしい。」
玄関まで入れたら御の字。
普通は門前で追い払われるからダメージが大きいのですぞ。
「一把一絡げ。」
一把なら、絡げる必要はない。
十把だから、まとめて一絡げにするんですよ。
「この問題は難しい。一長一短には解決できない。」
それは、一朝一夕!
「どうも、やる気がキウスだ。」
希薄を「キウス」と読んでいるようだ。
この言葉は喋るだけではなく、よく書いている。
恐らくは、希薄をキウスと単語登録していると思われる。
当方が、「これはあの社長の美意識の表れです」と説明した時、「何、B式って?A式もあるの?」と聞かれた事もある。
「君の言いたい事は、想像の域を脱するが」って、それじゃ想像じゃなくて、確信している事になってしまいます。
クレーム処理に行った時に、「お宅様の製品は、当社にとっては最重要なジャングルに属します」と説明して、相手が目を白黒した事もある。
それでも意味は通じるし、分かったような気分になるのが不思議だ。