昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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妻帰る

菊池寛の小説のようなタイトルだが、内容はまるで大違い。
あちらは、20年前に出奔し尾羽打ち枯らして帰宅した放蕩親父を巡る、家族の絆のお話で文芸大作。
こっちは、わずか10日前に大張り切りで海外旅行に出かけた妻が、大喜びの大興奮で帰宅した時の痴話話。
経過した時間の長さも、人情の程度も、何より格調と社会的知名度のスケールが遥かに違う。

南フランス観光を終えた妻は、帰宅後すぐに母親へ連絡したらしい。
妻としては、母親の体調が優れないので、しばらく日本を空けることを心配していた。
取って置きの土産話満載で、何から話そうかと勇んで電話したところ、母親の返事は
「アァ、帰ってきたね。ワタシァ~ね、食欲もないし」と、いきなり自らの体調が悪いことを延々と訴え始めたらしい。
愛娘の海外旅行の土産話など全く興味が無いから、当然ながら聞く耳ゼロ。
とにかく自分の窮状を聞いて欲しいと、こっちはこっちで娘の帰国を、手薬煉引いて待ちわびていたようだ。
妻としては、せっかく準備しておいた観光の成果を披露する間もなく、一方的に母親の話を聞くだけで電話連絡は終了してしまい、まるで不完全燃焼の欲求不満。

そんな妻の「旅のハナシがしたい症候群」真っ只中に、当方がノコノコ帰宅したので、さあ大変。
顔をあわせるや否や、マシンガンのような速射砲自慢話が始まった。
ところが、過去に同じような状況を経験した人なら誰もが判ってくれると思うが、全く興味がないテーマとか、あるいは高嶺の花の世界の自慢話ほど、聞く側にとってはまるで面白くない。
御免蒙りたいのが本心だが、「渡世の義理」と「将来への備え」からやむを得ない。
最初は、「フムフム、なるほど」と調子を合わせていても、「あそこでどうした」、「誰がどうした」と続くと、聞いている間に欠伸が出るほど退屈してしまう。
一方妻側は、「私の話を聞いて」と無理を言えるのは亭主しかいない。
こんな鬩ぎ合いになると、負けるのはオトコと相場が決まっている。

本物の土産は、「モナコで買った」だけが付加価値の、フツーの帽子一つ。
にも拘らず、ニースの美しさだの、何とか山に登った自慢話だの、同行した夫婦との一連の会話だの、止め処もなく続く見聞録を、お坊様の有難いご託宣の如くに聞き続ける羽目となった。
挙句は、「今回は全く時差ボケなんか感じない。体調も絶好調」と、またすぐにでもヨーロッパにとって返そうかの勢いで、「アァ楽しかった」だって。
台風一過を待つ思いで相槌を打っていたが、取敢えず一通りの経験談を話し終えると、やっと胸の痞えが降りたようで、「今日は早めに寝た方がいいから」とさっさとご就寝遊ばされた。

まぁ、草臥れて帰ってくるよりもマシだが、帰宅早々、躁状態でハシャがれても、なかなかついていけるものではない。