昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

日頃の思いや鬱憤を吐露!無礼千万なコメントは削除。

うつ病を発症した人

今年早々の2月、支店の後輩が「うつ病」になった。
同僚に、「眠れない」と悩みを訴えてきたので、具体的に聞くと、消え入りそうな声で「自分はダメだ、自信がない」と呟く。
心配になって、会社を早退させたらしい。
実は僕は、一週間前に彼と一緒に出張していたが、何一つ変わった点はなかったので、俄かには信じられない。
季節柄、花粉症でも発症したのではと軽く考えていたが、とうとう会社に来なくなってしまった。
同僚に、最近何か彼の環境が変わったかを聞くと、「結婚10年目でやっと子供ができ、出産予定が一か月後なので、責任を感じていた」ようだが、むしろ前向きだったとも言う。

慌てて会社の産業医に相談、躊躇する彼を説得して専門医に診せたところ、「うつ病」と診断された。
ところが、本人が納得しない。
自分自身で、自分がおかしいと分かっているのだから、「うつ病」ではないと主張する。
更には、奥さんまで「あの医者の質問の仕方が気に入らないから、専門医を変えたい」と言い出す。
結局医者を変えること三回に及んだが、診断結果はすべて「うつ病」。
事ここに及んで、最初に奥さんが「主人はうつ病」と認め、最終的には彼も、休職して治療に専念することに同意した。
この病気は、本人と家族に、「うつ病」と認めさせるのが難しい。

症状の重さから、治療は短くて半年、下手をすれば一年間を覚悟と思っていたら、わずか二か月後に医者の診断書付きで復職したいと言ってきた。
すぐに専門医と産業医の意見を聞くと、「本人が仕事を希望しているのなら、治療一辺倒よりも効果があるかもしれない」と、誠に頼りない。
何はともあれ、予想よりもずいぶんと早い復帰は嬉しい誤算だが、実は彼の長期不在を乗り切るための布陣で、後任担当を送り込んでいたので、この不景気の時代に、余剰人員を抱えることになってしまった。

復帰した彼の様子を聞くと、「全然問題ありません。元気です」らしい。
周囲の誰に聞いても同じ見解なので、大方は完治したと思い始める。
ただ僕だけは、「だけど、この2月には誰一人彼をおかしいと思っていなかったのだから、今回だって慎重に」と主張した結果、出来るだけ負担のかからない顧客に専念させることになった。
復帰後の彼は、ほんの半年前には生気なく落ち込んでいたとは思えないほど快活で、僕も自分の心配が杞憂だったと喜んでいた。

………のだが、ここにきて、またも異変が発生した。

先週彼から、「体がフワフワするので、病院に行きたい」と申し出があったらしい。
復帰後は、一か月に一度の通院で良かったほど回復していたはずなのに、ここにきて二週間続けて診察を受けたが、顔色も悪いし、段々と元気がなくなっている。
うつ病」の場合、本当に落ち込んでいる時よりも、中途半端に体が動く時が突発的に自殺に走ったりすると、恐ろしい話も聞こえてくる。

取り敢えず、専門医の診断を仰ぐが、心の病気は回復程度が目に見えないのが難しい。
しかも我々素人が良かれと思って好意や善意で励ますのが、却って本人には負担になったりすると聞くと、何を喋っていいのか分からない。
「頑張れ」や「期待している」は絶対にタブー。
結果として腫れ物に触るように扱ってしまい、それがまた彼には負担になる。
そんな悪循環になってしまう。

うつ病」にかかりやすいのは、妙に几帳面とか仕事熱心とか、やたら責任感が強いとか、一般的には良い性格なのだが、遊びの部分が少ない人のようだ。
今回の彼も、専門医に対して、他人が自分をどう見ているのか気になって仕方がないと悩みを打ち明けたようだ。
僕なんかは、本人はすごく繊細と自認しているが、他人様からは図太い性格と全く不本意な評価を受ける。
しかし、少々厚かましいと思われていても、そっちの方が心の悩みが少ないのなら、敢えて本当はナイーブであることを声高に主張する必要もないだろう。
いずれにしても、後輩が心身ともに健康になってくれることを祈るしかない。