昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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中国顧客からの大クレーム処理

長年営業の仕事をやってきたので、稀にだがとんでもないクレームを背負い込むことがあった。
今から六年程前、ちょうど仕事が変わる直前に、その商品の年間売上金額の40%近い賠償請求のクレームが発生したらしい。

顧客は中国で、新担当で最初の仕事がこのクレーム処理の引継ぎだった。
前任者の説明では、「本件は契約上、間の商社に全ての責任がある。会社法務や弁護士にも確認したが、裁判になっても負けることはない」と楽観的だった。
引継ぎ書にも、全ての営業活動は商社から依頼されて実行されたと書いてある。
すっかり安心して、何もしないまま一ヶ月が過ぎた頃に、件の商社から強硬な抗議を受けた。
「確かに契約上、我が社の責任を逃げる積りはないが、本件は全て貴社(即ち我が社)の指示に基づいて売り込まれたものであり、貴社の製造者責任は免れないのに、知らぬ顔の半兵衛を決め込む貴社の対応は長年の信頼関係を損なう。このままでは裁判で決着をつけざるを得ない」と主張してきた。

慌てて前任者に当時の詳細を再確認すると、中国の顧客に実質的に売り込んでいたのは当社であって、商社はその顧客を単に紹介しただけだと判明した。
顧客への技術サービスは、全部当社が担当しているので、顧客と商社が連携して「この製品を使いこなすための適切な指導がなされなかった」とでも言ってくれば、一気に形勢が逆転する。
前任者に「何故虚偽報告をした」と詰問すると、僕と入れ替わりに定年退職した事業責任者が、自分の晩節をクレームで汚したくなかったので粉飾したと信じられないことを言う。
更には弁護士にまで、真実を説明していない。
「弁護士への相談は、自らの弱みを晒け出して対応策を講じるべきなのに、我方の正当性ばっかりを、しかも我田引水で主張するべきではなかった」と言い聞かせると、「当時の責任者から指示されたので、本当のことが言えなかった」と、素直に反省する。
再度弁護士に実態を説明すると、「最初に聞いていたのと全く違う。技術サービスを実行していたとなると、全て商社の責任とは言えないし、これでは中国での裁判に勝てる保証はない」と、180度見解が変わり、すっかり弱気の見通しとなってしまった。

やむを得ず、中国顧客と直接クレーム交渉となったのだが、これが強烈に手強い。
「クレーム補償要求はビタ一文負からない。中国で裁判をすれば、自分たちが必ず勝てる」と、長いこと放って置かれた恨みからか、最初から攻撃的に出てくる。
それでも辛抱強く交渉していると、「わざわざ日本から、このクレーム解決のために来てくれたので、それに免じて」と妥協案なども出るようになってきた。
結局半年の間に中国を訪問すること五回、その間、「ああでもない、こうでもない」と押しくら饅頭を繰り返た結果、最終的には見舞金と、顧客にある当社品在庫分を引取ることにして、彼らの要求の3%程度を負担することで決着した。
中国顧客に「何度も来てくれてありがとう」と言われると、これは相手の術中に嵌ったのかなとも思わないでもなかったが、こんなことで裁判沙汰にでもなれば商品価値を損なう。
「これにて双方WIN-WIN」、強引にそう解釈した。

実はこの問題が決着に至る背景では、件の商社を味方につけたのが大きい。
最初にクレームの全責任を押し付けられ、すっかりむくれていた商社だったが、誠心誠意謝罪し、中国相手のクレーム処理に協力してほしいと依頼したら「まるで無関係を装った貴社の態度には、心底頭に来ていたが、率直に非を認めた貴方を信用する」と、逆に意気に感じてくれた。
この商社は、中国語の通訳も用意してくれたし、何よりも顧客の裏事情を聞き出し、落とし処を探ってくれたりした。
全面解決して、三社で合意書にサインした後、この商社のエライさんからは「今回の措置は、中国企業を相手にしたクレーム処理の見本」とまで褒めて貰った。

大変面映い賛辞だが、やはり百戦錬磨の中国顧客相手に、デリケートな金銭問題を折衝するとなると、味方は一人でも多いほうが良い。
身内への言い訳と責任回避に終始した前責任者には呆れるばかりだったが、事実を知らされず闇雲に自分の正当性だけを主張していたら、泥沼で呻吟する結果になったに違いない。
また万一この商社が中国顧客側についていたら、クレーム処理に手間取り、その後の事業が存続できたかすら怪しい。

経験則では、製造業のクレーム処理には原理原則があるように思う。
先ずは、あらゆる業務に優先して、現地へ直行。
顧客の言い分を聞き、トラブル状況を確認する。
全社を挙げて解決方法を探り、顧客の協力を得ながら実行する。
クレームを、顧客が文句を言っていると思うと後ろ向きの対応になるが、顧客が協力を要請していると見ると前向きになる。
製造業の場合は、売り手の買い手は一見の関係ではなく、継続が前提となっている。
だから、クレームもまたビジネスチャンス!
そんなことを感じた中国の大クレームだった。