昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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豊田泰光はたかが元野球選手だが

世の中、体育会系の人間を過度に評価する向きと、力自慢なだけのノータリンとまるで馬鹿にする向きがある。
当方は後者。
未だかって、体育会系出身者で偏差値が高かった奴にお目にかかったことがない。
野球で不世出の名選手、元巨人軍の天才プレイヤーも、オツムの出来に関しての逸話には事欠かない。
相撲の理事長を二度も務めた現役親方、ゴルフで珍しく世界に通用した田舎出身プロの解説なんて、聞けたものじゃない。
確かに運動神経の方に天分が集中したら、頭脳労働が不得手になっても仕方がない。

中途半端なプロ選手なんて、解説者にもなれず、仕方なくタレントになって食いつなぐ例が多いが、この世界も生存競争が厳しいので、いつの間にかフェードアウトしてしまっているケースが多い。
ベンチを貶した本がベスセラーになり、国会議員にまで成り上がったプロ野球OBも、今では際物解説者しか働き場所がない。
ましてや殴り合いを繰り返し、ほとんどがなにがしかパンチドランカー症候群のボクサーなんて、諸に痴呆タレントの役割しか与えられない。
外国人横綱はプロレスラーになって晩節を汚したし、頭脳明晰と言われながら横綱になれなかった超大型外国人大関も、ダイエットに成功したのか失敗したのか知らないが、まるで見るに堪えない風体になってしまった。

しかし何事にも例外がある。
その典型が豊田泰光で、毎週木曜日の日経新聞スポーツ欄に連載されているエッセイが大変面白い。
また、単に面白いだけでなく、実に正鵠を得ている。
当初は、これがあの西鉄ライオンズ野武士野球の担い手で、ふてぶてしさが売りだった豊田泰光が自分で書いているとは到底信じられず、絶対にゴーストライターがいると思い込んでいたが、彼は講演会なんぞもこなしていると聞くので、全くの馬鹿選手どころか、一芸に秀で、多芸をこなす珍しいタイプの元野球選手のようだ。

当たり前だが、野球に対する造詣も深い。
特に最近の派手な応援合戦には批判的で、あんな騒音がなければ、鍛え抜かれた選手の一挙手一投足が音で分かるし、当意即妙なヤジも野球を盛り上げる要素だと書いていた。
また妙に悟り切ったような若手選手が増えていることに対しても、「野球は団体競技だが、選手は個人経営者。もっと我が儘を言って自己主張しなければ」と、やんちゃ坊主だった自分への合理化もあるのかもしれないが、その言い分は現在のサラリーマン諸氏にも大いに相通じるものがある。

豊田泰光は、一流選手ではあったが、超一流ではなかった。
指導者としての実績もない。
西鉄時代に中西太監督の下、稲生和久と共に一年間助監督をやったが、成績は全く振るわなかった。
野球評論家としても、面白い一言居士だったが、野村克也の緻密さにはほど遠かった。
しかしエッセイイストとしては、さすがに専門分野ではないので超一流ではないかもしれないが、間違いなく一流だと思う。
そして野球選手の中では、誰が何と言おうとトップクラスの書き手だ。

毎週木曜日の日経新聞スポーツ欄を待ち遠しく思っている豊田泰光のエッセイファンがいるのは、野球以外で魅せた豊田康光の煌びやかな才能だと思う。
天は豊田泰光に、一流の野球の才と物書きの才の二物を与えたようだ。