昔は平凡な企業戦士、今は辣腕頑固老人の日常!

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アベノミックスの犠牲者

20年来贔屓にしてきた、近所のスパゲッテイ店が潰れた。
雛には稀な拘りの店で、ご主人が奥さんと二人で切り盛りする、極めて家庭的な雰囲気だった。
料理が出てくるまでに時間がかかるのが欠点だったが、味は良かった。
口コミで段々評判が上がるに取れ、客も増えてくる。
すると更に、料理が遅くなる。
何せ、味に拘るご主人が、一人一人の注文を聞いた後に、徐に麺を茹で始めるのだから、時間がかかるのはやむを得ない。
最初から待ち時間も楽しむユッタリ気分でこの店を利用してきたが、それが却ってリッチな思いにつながる副次効果もあった。

前回久し振りに訪ねると、それまで店を手伝っていた奥さんもいない。
文字通り、ご主人が孤軍奮闘しているが、メニューの価格が悉くアップしている。
しかも看板商品で、店の名前を冠したサラダが姿を隠している。
聞けば、
   ・円安の影響で、仕入れ資材が大幅に上がった。
   ・遣り繰り算段で何とか急場を凌いできたが、最早限界。
   ・値上げに踏み切ると同時に、採算性を考慮して一部の商品を廃止した。
   ・これで客足が遠のくのではとの心配は尽きないが、致し方ない。
   ・このままでは、店を続けるのは無理かもしれない。
と、かなり悲観的な見通しを語っていた。
確かに、それまでの最大の売りだった、肝心の味が落ちている。
「これでは、今から苦戦するなァ」と、大いに同情したのが約一か月前。

それが先週、ついに店を畳んでしまった。
ご主人は、「世間ではアベノミックスで景気が回復すると騒いでいるが、ウチみたいな店には何一つ良い事はない」と、安倍晋三の政策に不満タラタラだった。
この店は、中小企業とも言えない、個人経営の零細企業だ。
また食品関連の原材料は、大多数が輸入されている。
サラダ用の生鮮野菜は国産だが、これも燃料費アップで値上げ攻勢を受けている。
万策尽きて値上げすると、客からソッポを向かれる。
将に八方塞になり、ついに脱サラまでして20年続けて来た店を止める決断を下したようだ。

こんな光景は、我が家の近所だけではないはずだ。
アベノミックスは、デフレ脱却を謳い文句しているインフレ政策だ。
諸物価も上がるが給料が上がるので、相対的な負担増はない。
寧ろ、給料が上がった分、金持ちになった気がして、購買意欲が増すので景気回復につながる。
そんな経済理屈で、セッセと円安誘導し、経済界には賃上げを強制している。
しかし世の中、給料で生活している人だけではない。
個人商店の経営者は、収入増を図って値上げをすると、途端に顧客の反発を招く。
それが怖いからと値上げを躊躇すると、今度は一気に赤字が拡大する。
二進も三進もいかなくなる人達が急増する。
これこそアベノミックスの負の側面で、こんな人達こそ哀れな犠牲者だ。

無論、アベノミックスで利益を蒙っている人たちも多い。
円安効果で、利益が二兆円を超すトヨタやその関連企業、輸出関連事業はその最たるものだ。
要は、利益を享受する人達が半分いれば、残りの半分は辛酸を舐めざるを得ないのだ。
株価が上がって良かったと喜んでいる人もいるが、株を持っていない人達もいる。
アベノミックスは、円安歓迎勢力は裾野が広いので、景気回復の特効薬になると主張しているのだが、この政策では価格転嫁できない勢力は、間違いなく落ちこぼれてしまう。
すると今度は、格差が拡大したとの批判が充満する。

世の中には、この政策を採れば全てが上手く行くような、そんな便利な特効薬はない。
基本は「あちらを立てれば、こちらが立たず」なので、全ての政策には日の当たる所と日陰になる所が発生してしまう。
今度の選挙を、安倍晋三はアベノミックス選挙と命名した。
一方の野党は、アベノミックス政策の失敗隠しと非難している。
僕は、揚げ足取りに終始する、頼りない野党を応援する気にはならない。
しかし、やっとの思いで開業したスパゲッティショップを廃業したご主人の無念を想えば、とてもアベノミックスに賛同する気にはなれない。
拠って、アベノミックスには反対!