いささか旧聞に属するが、ポンペオ国務長官が「敵は中国共産党で、中国国民ではない」と演説したことがある。
そうだ、悪いのは中国共産党だ!
あの厄介な国も、14億人もいる中国人全部が敵ではないと思えば少しは気が楽になる。
諸悪の根源、中国共産党さえ瓦解すれば、中国人も解放されるし、自由主義社会も目の上のたん瘤がなくなる。
悪いのは中国共産党と決め打ちして、万事ハッピーエンド。
世界中がポンペオ発言で、そんな気分になったのだろう。
しかし、そんな人たちにの希望に水をぶっかけることになるが、中国共産党が破綻しても、国としての中国には変化がない。
ポスト中国共産党の政治体制が、誰にもイメージできないからだ。
ハリウッド映画「ラスト・エンペラー」は、清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀が主人公だった。
この映画は、溥儀が皇帝だった清朝を、中国最後の王朝と見ている。
溥儀が、中国史上最後の王朝の最後の皇帝だからドラマになる。
実際に多くの人が、中国王朝史は清朝で終わったと思っている。
しかし、実はこれが違っていて、中国の王朝はその後も綿々と続いている。
清朝を倒した辛亥革命のリーダー孫文は、中国革命の祖とも国父とも言われる。
しかしその後、列強の介入もあり、中華民国は大混乱になる。
その過程で、袁世凱や蒋介石、張学良が台頭したが、最終的には中国共産党の毛沢東が中国を制圧した。
この中国共産党が統治する中国を、近代的国家と勘違いする人が多い。
しかし中国共産党は、清朝、中華民国に続く中国に特徴的な王朝の変性種だ。
今までの王朝が、ほとんど漢字一文字だったのに比べ、長ったらしい中華人民共和国と名乗っている程度の差しかない。
清朝を打倒した中華民国王朝の皇帝が孫文で、その後いくつかの短期政権の王朝があったが、最終的には中国共産党王朝に落ち着いた。
中国は常に、歴史的英雄が中原を制覇し、前政権を滅ぼして新王朝を打ち立てる。
現代は、その初代皇帝の英雄が毛沢東で、その王朝は自らを中華人民共和国と名乗っていると、そう見なければならない。
そして中国人には、見たこともない民主主義などより、絶対権力者の皇帝が統治する国家体制が一番居心地が良いのだ。
だから中国においては、いずれは中国共産党は崩壊するが、次の体制が民主主義国家になることはない。
中国共産党を打倒する、次の英雄に率いられた王朝だけが、独裁国家として中国を統治できるのだ。
実際に中国四千年の歴史は、若干の混乱期を除いて、独裁者が統治した時代だ。
これは、ロシアの前例を見れば分かる。
ロシアは1917年、共産主義革命に成功した。
これで、世界最初の共産主義国家が誕生したとなっているが、実はロマノフ王朝がソ連共産党王朝に変わっただけだった。
言い換えれば、皇帝がニコライ二世からレーニンに変わっただけだ。
それなのに、レーニンが誰も知らなかった共産主義体制を語ったために、古い王朝を打倒した革命と誤解したものだ。
その証拠に、ソ連共産党王朝が行き詰まると、変わって政権を担ったのはエリツィンで、次がプーチン。
ロシアは皇帝がプーチンに変わっただけで、相も変らぬ独裁体制のままだ。
世界中の昔の王朝は世襲制だったので、初代は英雄でも、時代を経ると皇帝はドンドン劣化する。
共産党王朝は世襲ではないが、組織内の権力闘争や盥回しでトップが決まるので、やはり質の低下は避けられない。
ロシアにはポスト・プーチンの人材はいないし、中国の三代目習近平も、その政治能力には疑問符がついている。
しかしそれでも、中国もロシアも、誰か独裁者が登場して国をまとめない限り、国家としての体裁が保てない。
中国もロシアも、世界の大国になってはいけない発展途上国で、絶対に民主主義とは相入れない。
しかし現実は、この両国は多数の核兵器を所有する国連常任理事国だし、経済面でも世界に影響力を持っている。
そんな国が、独裁者によって運営されているなど、危険極まりない。
民主主義国家が全体主義に勝ち抜くためには、この両国の影響力を削ぐことが必要だ。
そのためには、目先のエサの経済交流に飛びついてはいけない。
今こそ、武士は食わねど高楊枝!
中国、ロシアとのビジネスを、縮小させる政策に着手するべきだ。
中国が経済的に豊かになれば、民主主義が定着するなど、幻想に過ぎない。
末期トランプ政権の政策は、絶対に正しかった。