子供が仕事の関係で「聖教新聞」を押し付けられたことがある。
新規取引先の社長から「三か月間でいいから」と頼まれ、断り切れなかったらしい。
僕の考えにも我が家の家風にも、全くそぐわない新聞だ。
配達されても、一頁はおろか、一行一言一句たりとも、読むことも見ることもなかった。
数日後、見知らぬオバサマの訪問を受けた。
自己紹介によると、我が家周辺の創価学会の幹部らしい。
彼女は「今回、聖教新聞の購読して頂きありがとうございます」と切り出した。
この女史、我が家族は全く知らない女性だったが、実は全国的に名の知れた人だった。
知る人ぞ知る、超有名人だったのだ。
彼女は、これまた日本人のほとんどが知る超有名人の子供を育て上げた育児ママとして、全国を股にかけて講演活動をしていた。
無論、創価学会の地元地区委員会でも、大幹部の一人だ。
よく喋るし、物腰は柔らかいが、雰囲気として凛とした貫禄がある。
一目見ただけで、只者ではないことが分かる。
しかし当方にも、筋金入りの「熱心な無宗教徒で、敬虔な無神論者」としてのプライドがある。
相手がどんなにエライ宗教活動家だとしても、そう簡単に創価学会に折伏される訳にはいかない。
興味もない聖教新聞を、今後とも購読するのも御免蒙る。
「実は息子の仕事の関係で義理買いしただけで、創価学会には全く関心がありません」と率直に伝えた。
すると意外にも、この女性は即座に「あぁ、そうですか」と納得した。
そしてその次の台詞が、更にびっくりさせるモノだった。
「それじゃ三か月も無理される必要はありません、私の方で手続きを取りますので、明日以降の配達はなしにしておきましょう」
予想もしない言葉だったが、何とも潔い。
実は創価学会については、全く違った先入観があった。
どんなに嫌がる相手にも、集団で且つ長時間に亘って説得する。
一種の圧迫面接でマインドコントロール状態にすることで、次第に創価学会の支配下に置く。
実際に、創価学会のそんな強引な勧誘手法が社会問題化して、批判が巻き上がったこともあったはずだ。
創価学会・公明党にとっての聖教新聞、共産党にとってのしんぶん赤旗の拡販は、党の根幹に関わる重大問題だ。
いずれも組織の運営資金のかなりの部分を、新聞拡販に頼っている。
そのために、創価学会員や共産党員にとっては、機関紙拡販は組織から命じられた最重要使命となっている。
ただ昨今では、天下の大手新聞社でも、販売部数激減に悩んでいる。
発行部数5百万部超だったあの朝日新聞が、3百万部を割り込んだ。
しんぶん赤旗は、3百万部の発行部数が百万以下になり、党本部から非常事態宣言が出る始末だ。
我が家周辺の創価学会だけが、特別に絶好調とは思えず、やはり地方幹部としては、聖教新聞の読者は一人でも多く欲しいはずだ。
しかしこの女性は平然と「無理されなくて結構です」と言い放った。
成程これだから、立派な子供を育てた育児評論家として、日本全国から講演会の依頼が来るはずだ。
創価学会員がこんな人ばかりなら、組織に対する認識も変わる。
僕は、未だ一人として、魅力的な共産党員に遭遇したことがない。
むしろ、全員揃って、嫌なヤツばかりだった。
しかし創価学会の方は、一人だけながら、括目に値する人を知った。