世界中で、「Me, too!」運動が起きている。
過去の性被害者が、勇気を奮って加害者を告発する動きだ。
女優のアリッサ・ミラノの呼びかけで始まったようだが、「#Me Too」と、具体的な体験や加害者を実名で告発するのだから影響は大きい。
告発した男性によると、15歳のころにレヴァインによって性的虐待を受け自殺まで考えたと言う。
レヴァインは否定しているが、メトロポリタン歌劇場側は複数の疑惑を認め、今年度のプログラムから外したのが経緯のようだ。
歌劇場側が事態を把握したのは、ほぼ間違いなく「#Me Too」による内部告発だろう。
そうでなければ、今になって突然こんな事件が表面化するはずがない。
ジェームズ・レヴァインと言えば、40年以上にわたってメトロポリタンオペラの指揮者を務めた。
オペラファン、クラシックファンにとっては、神様みたいな存在だった。
昨年のメトロポリタンオペラでも、肝心の演目は悉くレヴァインが指揮を執っている。
この問題が発覚するまでは、今年度もレヴァインタクトを振る予定の演目は多かった。
個人的な性癖については、最近ではLGBTについても市民権が認められ、性的マイノリティへの差別は減少している。
しかしそれは、双方が納得ずくで合意の上でなければならない。
あくまで、相手に迷惑をかけない範囲だ。
レヴァインの件のように、相手が未成年で、しかも今に至るまでPTSDとなっているとなると、これは犯罪になる。
尤も、この男性が被害を受けた時期は、レヴァインは既に指揮者としての名声を確立している。
その彼が、全く無関係な一般少年に性的嫌がらせをしたとは考えにくい。
当時は、金で済ませていたと考えるのが普通だろう。
しかしそれでも、その当時の悪事が白日の下に晒されると、レヴァインの晩節は穢れ切ったものになってしまう。
繊細な表現が必要な芸術の世界では、一般的な性癖を逸脱した天才たちの話を聞く。
しかしどんな性癖の持ち主でも、犯罪は許されない。
レヴァインの許されざる性癖の結果が、多くの人に感動を与えた音楽を醸しだしたのなら、それは詐欺だ。
ドーピング違反で勝利を収めたアスリートと、全く一緒になる。
毎年、豪華な舞台づくりのメトロポリタンオペラが楽しみだった。
しかし今後は、レヴァインのあの顔を見るだけで、彼のやった破廉恥行為を思い出してしまう。
折角のオペラ鑑賞が、台無しになる気分だ。